インド税務の基本〜日本企業が押さえるべき制度・規制・運用ポイント〜
はじめに
インドは製造業からITサービス、スタートアップまで、多様な分野で経済成長を続けています。
日本企業の進出も年々増加し、日系製造業の工場設立、IT企業の開発拠点、商社の現地法人など、活動の幅は広がる一方です。
しかし、ビジネス拡大の陰には「複雑な税務制度」という大きな壁があります。
中央政府と州政府が併存する二層構造、毎年の連邦予算で頻繁に変わる税制改正、そして外国企業への特有の規制──これらを正しく理解しなければ、余計なコストや法的リスクを抱える可能性が高まります。
本記事では、法人税・TDS・GST・国際課税といった主要制度をわかりやすく整理し、進出企業が押さえるべき実務ポイントをご紹介します。
1. インド税務制度の全体像
1.1 直接税と間接税の構造
インドの税制は大きく「直接税」と「間接税」に分かれます。
直接税は法人税や所得税など、利益や所得に対して課税されるもので、中央政府が所管します。
一方、間接税は物品やサービスの取引に対して課され、2017年に導入されたGST(物品・サービス税)が代表的です。
GSTは中央税と州税に分かれ、州をまたぐ取引には統合GST(IGST)が適用されます。
この二重構造は日本企業にとって制度理解のハードルとなる一方、適切に運用すれば税負担の最適化も可能です。
1.2 税制改正の頻度と企業への影響
インドでは毎年2月に発表される連邦予算で税制改正が行われます。
税率変更、新しい優遇制度、既存制度の廃止などが一度に発表されるため、年度計画や契約条件に影響するケースも珍しくありません。
特に外資規制や新たなデジタル課税の導入などは短期間で施行されることもあるため、最新情報のキャッチアップが重要です。
2. 法人税と優遇制度の概要
2.1 標準税率と適用範囲
インドの法人税率は内国法人と外国法人で異なります。
内国法人は一定の条件を満たせば軽減税率が適用される一方、外国法人(支店など)は標準税率が適用されるのが一般的です。
また、法人税額に対してSurcharge(追加課徴金)やCess(教育目的税)が上乗せされるため、実効税率は制度上の税率より高くなる傾向にあります。
2.1.1 Surcharge(追加課徴金)
Surchargeは、高所得法人や特定所得層に課される法人税の追加負担です。
課税対象となる所得規模に応じて率が段階的に変動し、大規模法人ほど高率が適用されます。通常の法人税に加えて計算されるため、課税額全体を押し上げる要因となります。
2.1.2 Cess(教育目的税)
Cessは、教育や健康分野の国家プロジェクト資金を確保するために導入された目的税です。
法人税とSurchargeの合計額に対して一定率が課税され、インド全土で徴収されます。目的税であるため使途は限定されますが、最終的な実効税率を引き上げる要因となります。
2.2 軽減税率や特別優遇措置
2019年以降、製造業向けに特別軽減税率制度が導入され、新規設立企業は条件次第で有利な税率を利用できます。
さらに、経済特区(SEZ)に進出する企業は一定期間法人税の免除や減免を受けられるなど、地域や業種ごとの優遇策も多く存在します。これらを戦略的に組み合わせることで、進出初期の税負担を大幅に軽減できます。
3. 源泉徴収制度(TDS)の基礎
3.1 TDSとは何か
TDS(Tax Deducted at Source)は、取引やサービスの支払い時に税金を差し引き、政府に納付する制度です。
企業は支払者として源泉徴収の義務を負い、支払い先が外国企業であっても対象になる場合があります。
3.2 対象取引と一般的な税率の目安
TDSの対象には、サービス契約、利子、ロイヤリティ、技術提供料などがあります。税率は取引内容によって異なりますが、日本との二重課税回避協定(DTAA)を活用すれば、源泉税率を引き下げられる場合があります。
3.3. 未対応によるリスク
TDSの未徴収や遅延納付は、追徴課税や罰則の対象となります。
特に外資企業の場合、支払い処理を委託している現地スタッフや業務委託先が制度を誤解し、結果として高額の追加負担を招く事例も報告されています。
4. 物品・サービス税(GST)の基本
4.1 GSTの仕組み
GSTはインド全土で適用される間接税で、州ごとに異なっていた物品税やサービス税を統一しました。
中央GST(CGST)と州GST(SGST)、州を跨ぐ取引には統合GST(IGST)が課されます。仕入税額控除(ITC)制度があり、企業は仕入時に支払ったGSTを売上時のGSTから控除できます。
4.2 GST登録の必要性
年間売上が一定額を超えるとGST登録が義務化されます。
また、複数州で事業を行う場合、それぞれの州で登録が必要になるケースもあります。登録を怠ると、仕入税額控除が受けられないだけでなく、罰金や営業停止処分を受ける可能性があります。
5. 国際取引と二重課税回避協定(DTAA)の概要
5.1 日本–インド間のDTAAの概要
日本とインドは二重課税回避協定(DTAA)を締結しており、同一所得に対して両国で二重に課税されることを防ぐ仕組みを持っています。
この協定により、配当・利子・使用料など特定所得の源泉税率が引き下げられるほか、常設施設(PE)の定義や課税権の所在が明確化されます。
企業はこれにより、税務コストの削減や予見性の高い経営計画が可能となります。インド進出企業にとって、DTAAの活用は国際取引の競争力強化に直結する重要な税務対応です。
5.2 外国税額控除の基本概念
外国税額控除は、国外で支払った税金を日本の法人税額から控除できる制度です。
インドでの事業活動で発生した所得に対し現地で納税した場合、日本側でその額を法人税から差し引くことが可能になります。
これにより、同一所得に対する二重課税を防ぎ、実質的な税負担を軽減できます。
ただし、控除対象となる税金の種類や限度額には規定があり、証憑書類の保管や申告手続きが必須です。適切な活用には事前の制度理解と計画的な税務管理が求められます。
5.3 日本–インド間DTAA & 外国税額控除フロー

STEP 1 インドで事業活動・収益発生
インドで事業活動を行い、収益を発生させる
STEP 2 インドで法人税・付加課税を納付
インドの税法に従って税金を納付する
STEP 3 DTAAに基づき二重課税を確認
二重課税を避けるために二重課税防止協定を確認する
STEP 4 外国税額控除の適用要件を判断
外国税額控除の資格を評価する
STEP 5 日本の確定申告で控除を申請
日本の確定申告でインドで支払った税金の控除を申請する
STEP 6 二重課税を回避し最終的な税負担を確定
二重課税を回避し、最終的な税負担を確定する
6. インド税務対応の実務ポイント
6.1 PAN・TAN登録の概要
インドで事業活動を行う企業は、納税者番号であるPAN(Permanent Account Number)と、源泉徴収管理番号であるTAN(Tax Deduction and Collection Account Number)の取得が必須です。
PANは法人税やGST申告などすべての税務手続きの基礎となり、TANは給与や業務委託料支払い時の源泉徴収管理に使用されます。
取得はオンライン申請が可能ですが、現地住所や会社登録証明などの書類が求められます。
これらの番号がなければ納税や還付申請ができず、取引先との契約にも支障が生じるため、進出初期段階での登録が重要です。
6.2 契約段階での税務条項確認
インドでは契約書に税務関連条項を明確に盛り込むことが、後々のトラブル防止につながります。
特に源泉徴収税(TDS)の負担者、GSTの課税範囲と支払い義務、税務申告の責任分担などは事前に合意しておくべき重要ポイントです。
これらが曖昧なままだと、支払い額の減額や二重課税リスク、罰金の発生などの問題が生じる可能性があります。
契約交渉の段階から税務の専門知識を持つ人材や現地コンサルタントを関与させることで、条項の適正化と将来的なリスク軽減が図れます。
6.3 州ごとの税務文化の違い
インドは連邦制のため、州ごとに税務文化や行政手続きの進め方に差があります。
GSTは全国共通ですが、州税や地方税の適用範囲、申告方法、税務調査の厳格さなどが異なる場合があります。
例えばマハラシュトラ州やカルナータカ州は手続きの電子化が進んでいますが、他の州では依然として書面や対面でのやり取りが中心です。
また、同じ制度でも解釈や運用が州により異なるケースがあり、現地代理人や会計事務所と密に連携し、州特有のルールを把握しておくことが不可欠です。
まとめ:インド税務を見える化し、事業成長の土台に
インドの税務は複雑で、制度の更新スピードも速いですが、概要を把握し制度変更に対応できれば、大きなリスクを避けることが可能です。
特に法人税・TDS・GST・国際課税の枠組みを押さえ、契約段階から税務負担を織り込むことで、無駄なコストを削減できます。
現地の信頼できるパートナーと協力しながら、税務を【見える化】し、経営資源を本業の成長に集中させることが、インド市場での長期的な成功への近道です。
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参考URL:
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