熊本半導体産業の最新トレンドとインド進出戦略
はじめに
現在、世界の半導体市場は未曾有の変革期を迎えています。
米中対立、サプライチェーン再編、EV・IoT・AIといった成長分野の需要拡大により、各国が自国製造体制の強化に動いています。
その中でも、熊本県の半導体産業はTSMCやソニー、ロームの進出によって注目の的となり、日本の次世代産業の要とも言える存在です。
一方、インド政府も半導体産業を国家戦略として位置づけ、大型支援とインフラ整備を加速しています。
製造業全体を後押しする「Make in India」政策に加え、半導体分野には生産奨励金制度(PLI)を導入。
インドは今、世界の製造・開発拠点として新たな地位を築きつつあります。
本記事では、知っておくべき現地の動向、制度、進出戦略、制度対応、成功のポイントをご紹介します。
1. 熊本県の半導体集積と強み
熊本県は、日本国内でも有数の半導体・電子部品産業の集積地です。主に以下のような特徴を持っています。
1.1 TSMC・ソニーの熊本工場(JASM)建設で注目度が急上昇
熊本県菊陽町に建設されたJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)は、TSMC・ソニー・デンソーなどの出資による国内最大級の半導体製造拠点です。
最先端プロセスを担うこのプロジェクトは、熊本を「日本の半導体再興の要」として世界に知らしめ、周辺企業やインフラへの波及効果も絶大です。
中小企業にも商機が広がり、裾野産業の高度化が進んでいます。
1.2 地元中小企業が持つ「高精度加工」「精密部品製造」「特殊材料」「計測・検査技術」などの高い技術力
熊本には、長年のモノづくりで培った加工・検査技術を持つ中小企業が多く、半導体製造に必要な高精度な金属加工、微細部品の供給、特殊材料の開発、検査機器の製造など、重要なバリューチェーンを担う実力があります。
こうした技術力は、JASMをはじめとした大手企業との取引を実現する鍵となっており、地元企業の存在感が高まっています。
1.3 阿蘇熊本空港を軸にした交通・物流インフラの整備
JASM進出に呼応し、熊本空港周辺の交通インフラ整備が加速。
空港アクセス道路の改良や高速道路の利便性向上により、物資輸送の効率化が進んでいます。
さらに、空港の貨物機能強化や、物流拠点の整備も進行中で、原材料や部品の調達・出荷を迅速に行える環境が整いつつあります。
製造拠点としての熊本の価値は、ますます高まっています。
1.4 熊本大学・高専との産学連携による高度人材の供給
熊本県では、熊本大学や熊本高専を中心に、半導体関連の専門人材育成が本格化。
JASMとの連携講座の開設や、企業と連動した技術者教育、インターンシップなどを通じ、現場で即戦力となる人材が育成されています。
中小企業にとっても、地元で育った優秀な理工系人材を採用できる土壌が整っており、長期的な技術継承にも期待が持てます。
こうした強みは、海外サプライチェーンと連携してグローバル展開する際の競争優位となり得ます。
2. インドの半導体進展状況 ~政策と市場成長の加速~
インド政府は2021年以降、半導体分野の育成に本腰を入れています。特に注目すべきは以下の動きです:

さらに、スマートフォン、EV、データセンター、5Gの普及により、半導体の内需が急拡大している点も見逃せません。
3. インド半導体進出のリアル——成功企業が押さえるべき4つの視点
3.1 補助金を最大限活用せよ──インド政府のPLI制度と申請戦略
インド政府は、半導体産業の誘致を目的に「PLI(生産連動型インセンティブ)制度」などの補助金プログラムを実施しています。
対象となるのは、高度な製造技術を持つ企業や、一定額以上の投資を行うプロジェクトです。
制度の適用には、事前登録、事業計画の提出、投資・雇用実績の証明などが必要であり、書類手続きは煩雑かつ英語での対応が求められます。
現地のコンサルや日本企業支援機関の活用がカギとなります。
3.2 評価される技術とは?──インド市場で通用する「日本品質」の条件
インド市場では、価格重視の傾向と同時に品質志向のニーズも急速に高まっています。
日本企業の精密加工や高信頼性部材は、EVや通信機器など高度化するインド製造業の中で高く評価される可能性があります。
一方で、
「現地でどんな仕様が好まれるか」
「量産に必要な納期や価格帯はどうか」
といった市場ニーズの把握が重要です。
現地展示会やB2Bマッチングイベントの活用が、評価軸の明確化につながります。
市場調査についてはこちらの記事もお役立てください。
3.3 成功のカギは“誰と組むか”──現地パートナー&販路開拓の実践ルート
インド進出においては、現地ディストリビューターや製造パートナーとの連携が成否を分けます。
特に半導体関連の部材や装置分野では、ローカル企業のネットワークを持つ商社や、日系支援機関(JETRO、商工会など)との接点が重要です。
また、日印間のビジネスマッチングイベントや、各州政府の投資誘致窓口を通じて信頼できる企業を見極めることが、スムーズな市場参入につながります。
3.4 工場設立・JVの落とし穴──知らないと損する法務・規格対応のポイント
インドでの工場建設やジョイントベンチャー(JV)設立には、土地取得や建設許可、環境基準、労働法、外資規制などの多岐にわたる法務対応が必要です。
特にインド標準局(BIS)の技術規格や、税制度(GST)への適応も求められるため、事前の制度調査と現地弁護士・会計士との連携が不可欠です。
契約書作成や知的財産権の取り扱いにも注意し、日印間のビジネス慣習の違いを理解することが重要です。
4. 熊本県の半導体企業が押さえるべき制度・規格・法令対応
4.1 インド政府の補助制度
4.1.1 PLI制度(生産連動型インセンティブ):最大50%補助の好条件
インド政府が主導する「PLI制度(Production Linked Incentive)」は、半導体や電子部品の製造強化を目的とした大型補助金制度です。
対象となるのはチップ製造企業だけではなく、材料供給や製造装置メーカーも含まれます。
さらに、単独進出に限らず、現地企業とのジョイントベンチャー(JV)を通じても対象となるケースがあり、製造業全体の裾野拡大が狙いです。
補助率は最大50%と高く、参入コストを大きく軽減できるチャンスがあります。
4.1.2 DLI制度(設計支援):EDAやIC設計企業にも追い風
DLI制度(Design Linked Incentive)は、インド国内における半導体設計能力の育成と強化を目的とした支援制度です。
EDAツールの活用やIC設計、SoCの開発に取り組む企業を対象に、最大で設計コストの50%程度を補助する枠組みが設けられています。
これにより、製造だけでなく【設計力】を持つ企業にも大きなチャンスが生まれています。
中小のファブレス企業やEDA開発部門を持つ企業にとって、インド市場は次なる拠点候補となり得ます。
4.2 法令とインド標準(BIS)
4.2.1 BIS認証:QCO対象品の見極めが鍵
インドに製品を輸出する際は、「インド標準局(BIS)」による認証制度への対応が必須です。
特に「QCO(Quality Control Order)」に指定された製品については、BIS認証がなければ販売や流通が制限されます。
半導体関連では、測定装置や電子部品、材料において指定されるケースが増えており、日系企業にとっても油断できません。
規格適合を怠ると、事業計画全体に支障をきたす恐れがあるため、事前の製品確認が重要です。
4.2.2 関税・輸出入規制:DGFTによる許可品目に注意
インドでは外国貿易総局(DGFT)が輸出入の規制を管轄しており、特定の半導体関連製品については事前の輸出許可が必要となることがあります。
また、関税率も製品によって大きく異なり、想定外のコストが発生する可能性もあります。
これにより、輸出入戦略の再設計や現地生産への切り替えが求められるケースも存在します。製造装置や特殊材料の輸出入に関わる企業は、制度改定に常に目を配る必要があります。
4.2.3 GST制度:還付・税率適用の理解は不可欠
インドで事業展開する場合、物品・サービス税(GST)制度への対応は避けて通れません。
GSTは連邦・州レベルで課税される複雑な構造を持ち、輸出入時には適用税率の正確な理解が必要です。
特に、輸出品にはゼロレートが適用されるものの、手続きによっては還付に時間がかかることもあります。
設備輸入時やサービス契約時にもGSTが発生するため、事前の会計・税務スキーム構築が成功の鍵を握ります。
4.3 特別経済区(SEZ)制度の活用
インドのSEZでは、以下のようなインセンティブが得られます。
インド政府は、戦略的製造ゾーン(例:SEZや専用半導体パーク)への進出企業に対して、10年間の法人税免除や関税・GSTの全額免除など、大規模な税制優遇措置を用意しています。
これにより、初期投資負担を大幅に軽減でき、長期的な利益確保にもつながります。
また、対象となる輸入設備への優遇制度も充実しており、工場設立や装置移転時に大きなアドバンテージとなります。インド進出を本格的に検討するなら、こうした制度活用は前提条件と言えるでしょう。
装置企業や部材サプライヤーにとって、SEZ拠点との連携は非常に合理的です。
5. インド進出へ向けた熊本県半導体企業のアクションプランとは?
5.1 技術の切り口で勝つ:「部材」「装置」「設計支援」
熊本の企業が持つ「高精度・高耐熱・小型化」などの技術は、インドの立ち上がり市場において極めて重要です。
5.1.1 装置部品・治具・洗浄装置の提供(インド国内ファブ建設向け)
インドではTSMCやMicronをはじめ、複数の半導体ファブ建設が進行中です。
これに伴い、クリーンルーム内で使用される精密装置部品や治具、洗浄装置などのニーズが急増。
高い精度と耐久性が求められるため、日本製品の品質は現地からも高く評価されています。
特に熊本の中小企業が得意とする微細加工や部品供給分野では、インド大手ファブとの直接取引や、現地SIer経由での供給チャンスが広がっています。
5.1.2 半導体製造用素材の供給(フォトレジスト、薬液、シリコン等)
半導体製造には、高純度な薬液、フォトレジスト、シリコンウエハーなどの素材供給が不可欠です。
インドはこれまで素材を輸入に依存してきた背景があり、製造拠点の増加に伴い、安定かつ高品質な供給体制を構築しようとしています。
日本は素材技術で世界トップクラスの実績を誇り、特に特殊材料や高機能素材の分野では、技術連携や現地合弁の形でインド市場に参入できる余地があります。
5.1.3 EDAツールや回路設計支援(DLI制度の対象に)
インド政府が推進するDLI制度では、EDA(電子設計自動化)ツールやIC回路設計支援企業への補助金が用意されています。
これは製造に加えて「設計」領域も国家戦略と位置づけている証拠です。
熊本を含む国内EDAベンダーや回路設計を得意とする企業は、現地の設計拠点との連携や、インド人エンジニアとの共同開発により新たな市場を開拓できます。
設計から試作までを担う日本企業の存在感が増しています。
5.2 ローカル企業とのJVや技術提携
インド市場では現地企業との合弁(JV)や技術提携を通じた進出が現実的な選択肢となっています。
特に製造拠点を伴う進出や政府補助金(PLI制度)申請には、ローカル企業との協業が要件となるケースも多く、進出障壁を下げる効果があります。
さらに、販路開拓・人材確保・規制対応の面でも、現地パートナーとの連携は極めて有効です。
日本企業の技術力とインド企業の市場知見を組み合わせることで、競争力のあるビジネスモデルが構築できます。
5.3 需要を狙う:EV・スマートフォン・AI・宇宙開発
5.3.1 EV向けパワー半導体
インドはEV化を国家戦略の柱に掲げ、電動バイクや小型EV市場が急拡大中です。
これに伴い、パワー半導体の需要が急速に高まっており、耐熱・高出力対応の製品が求められています。
熊本地域には、車載向けの高性能半導体部品やSiC(炭化ケイ素)パワーデバイスを扱う企業も多く、インド市場での提案力を発揮しやすい土壌があります。
現地EVメーカーとの開発協業も現実的なビジネスチャンスです。
5.3.2 スマートフォン・通信機器向け部品
インドはスマートフォンの製造大国でもあり、Samsung、Apple、Xiaomiなどが現地での生産を拡大しています。
これに伴い、通信機器向けの小型・高機能部品やコネクタ、アンテナ、RF部品などの調達ニーズも増加中です。
日本の精密部品メーカーは高い信頼性と安定供給が強みであり、品質志向のインド企業からの引き合いが見込まれます。スマホ関連のEMS事業者との取引も重要な販路となります。
5.3.3 AI・センシング機器のチップセット開発
AIやIoT機器の普及により、センシング技術やAI処理を担うチップセットの需要が高まっています。
インドでも監視カメラ、スマートホーム、ヘルスケアデバイスなどに用いられるSoCやセンサー関連ICの設計・供給が加速中です。
設計と製造を分業する構造の中で、日本のチップ開発力と高信頼性は大きなアドバンテージ。
インド設計拠点との連携や、EDA開発との統合提案にも商機があります。
5.3.4 宇宙・防衛用の特殊用途
インド宇宙研究機関(ISRO)や防衛研究開発機構(DRDO)による宇宙・軍事関連プロジェクトが進む中、特殊用途向け半導体の需要が急伸しています。
耐放射線性や極限環境対応の半導体・電子部品は国内生産に限界があり、日本企業の高度技術に期待が寄せられています。
熊本には真空・高温・耐衝撃といった特殊要求に対応可能な精密部品メーカーが存在し、宇宙・防衛という高付加価値市場での連携も視野に入ります。
まとめ
熊本の半導体企業にとって、インド市場はもはや【遠い国】ではありません。
技術・素材・装置・設計支援といった各分野で日本品質を求める声は確実に増加しています。
インド政府の制度を活用し、ローカルパートナーと組みながら、成長市場にアクセスする戦略がカギとなります。
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